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共同開発の
意味を実感

  • #三浦工業株式会社
  • #業務支援アプリ
  • #人間中心設計
  • #PoC

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vol.

02

電機システム技師部 BAシステム技術課

課長 兒玉 芳弘 氏

メンテサービス部 ZISオンラインセンター

主任 岩井 英樹 氏

誰もが使える業務アプリを目指して。人間中心設計のプロセスを取り入れ、徹底したユーザー視点を実現。

顧客の機器を守る「オンラインメンテナンス®」

Story of IDEA

顧客の機器とメンテナンス拠点や本社オンラインセンターを結び24時間365日システムをバックアップする「オンラインメンテナンス®」。
同システムがリニューアルすることになり、フェンリルは三浦工業様と共同でデザインと開発を担当しました。
今回は、プロジェクト推進リーダーの兒玉様と現場のフィールドエンジニア出身の岩井様に、プロジェクトに至った経緯や完成までの道のり、リリース後の効果について伺いました。

開発の経緯/背景

THEME 01

開発の経緯/背景

フィールドエンジニアが
笑顔になれるシステムに。
───御社が抱えておられたオンラインメンテナンスアプリやメンテナンス業務における課題と、今回のリニューアルプロジェクトを立ち上げようとしたきっかけをお聞かせください。

兒玉

弊社のオンラインメンテナンスサービスは1989年に始まりました。そこからすでに30年近くたっており、さすがにちょっと古いというのがシステムに対する社内の共通認識でした。
あと、当時オンラインメンテナンスアプリは事務所に設置してあるパソコンでしか使えませんでした。フィールドエンジニアは基本的に外回りなので、朝の出社時と事務所に戻ってくる夕方しかオンラインメンテナンスアプリに触れられないという課題もありました。
また、弊社にはさまざまな事業があり、それぞれ新しい商品をどんどん出しています。そのためフィールドエンジニアはたくさんの種類の機器のメンテナンスをしないといけないのですが、機器の情報を全て覚えきれるものではなく、データを見ながらでないとメンテナンス作業ができない、という課題もありました。

岩井

オンラインメンテナンスアプリを見ることができるパソコン自体も少なくて、事務所に1台か2台しかないということもありました。
また、お客様の機器に異常が発生した時は、事務所にいるスタッフにオンラインメンテナンスアプリのデータをメールで送ってもらったり、電話で確認したりしてお客様への対応やメンテナンス作業をしていたのですが、欲しい情報を出してもらうコミュニケーションが大変でした。

兒玉

そのような状況だったのですが、ちょうど社内でiPadの導入が進むことになり、フィールドエンジニアが1人1台持っているような状態になったので、これを機にオンラインメンテナンスアプリをリニューアルしようということになりました。

───リニューアル前は、データへのアクセスに不便さを感じておられたのですね。リニューアルのプロジェクトで最も重視したことは何でしょうか。

兒玉

リニューアルのプロジェクトは2013年に始まり、2017年に私が担当することとなりました。
私が引き継ぐまでの4年間はリーダーのような存在が社内にいなかったこともあり、試行錯誤の状態が続いていました。私はこのようなプロジェクトに携わったのは初めてだったのですが、自分が引っ張っていかなければプロジェクトが前に進まない、という思いがありました。
といっても私1人しかいない状況なので、私自身のこだわりを出すのではなく、とにかく周りの意見を聞こうというところから始めました。そうやって各所にヒアリングして感じたのは「一番大事なのは実際にオンラインメンテナンスアプリを使う人」ということ。そこで、「フィールドエンジニアが笑顔になれるシステムを作ろう」ということを重視しながら進めていきました。

───なるほど、現場で実際にシステムを使う人のことを重視されてきたんですね。そこからフェンリルに依頼するようになったのはどういった経緯なのでしょうか?

兒玉

意見を社内で聞くと「使い勝手が悪いです」という声が多かったのです。「使い勝手を良くする」というのは専門でやってこなかったので、社内では難しいということになり、開発ベンダーを探すことになりました。
ベンダー選定の条件は、iPad上で利用するシステムの開発ができるということに加えて、開発と一緒にデザインもできるということとしました。デザインと開発が別々だと開発期間も長くなるし、チグハグなシステムになると思いましたので。
そういった条件で絞り込んでいった結果、フェンリルさんにお声がけすることになりました。

───お声がけいただいた時に頂戴した資料にも、UIやUXというキーワードがあったのですが、2017年当時業務系のシステムでそのようなキーワードはほとんど浸透していなかったと思います。また「使い勝手の向上」とデザインを結び付けることは、特に製造業では珍しかったと思うのですが、なぜデザイン面にフォーカスされたのでしょうか?

兒玉

私もデザインのことを「カッコ良くする」くらいにしか思っておらず、全然理解していなかった部分もありました。ただ周りの人たちにヒアリングしてみると、社内のデザインを専門としている部署の人に「使い勝手を良くする専門のデザイン会社があるよ」と聞いたのがきっかけです。いろいろな部署に聞いていった結果わかってきたという感じですね。

───周りの人から情報収集するというのは重要ですね。
完成までの道のり

THEME 02

完成までの道のり

使う人のことを第一に考え、人間中心設計のプロセスを採用。
───フェンリルが提案した、最初にPoCを作ってから評価し、本開発に進むという手法に関して率直なご意見を聞かせていただけないでしょうか?

兒玉

フェンリルさんと出会う前からも品質を上げていこうと努力はしていて、開発上流工程のやり方を見直していました。ただ、見直したとはいえ、今までやったことがないことを自分たちなりのプロセスとして実施していたため、方法がわからないままなんとなくやっていたのが実情でした。
フェンリルさんと進めていく上で「人間中心設計」の考え方に触れ、「ああっ、こういう風に上流工程を行うのだ」と初めて知ったんです。
これまでは上からの指示のまま作っていたのですが、今では使う人にとって本当にいいものにするために上流工程でレビューしてから作る、というマインドになりました。自分たちも成長できたのは大きな副産物でしたね。フェンリルさんと出会えたことは奇跡だと思っています。

───ありがとうございます。そう言っていただけると非常に嬉しいですね。

兒玉

あと、PoCから進めたことにより社内の承認を得やすかったです。
絵に描いた餅ではなく、現場やお客様の声をもらって実現可能性を試していたので、失敗のリスクが小さいという理由もあったと思います。
また、現場での実証テストなどを行うことにより、リニューアルをするんだという社内の雰囲気も作り出すことができました。PoCからではなく、普通に開発から進めようとしたら社内承認が通らなかったと思います。

───社内への提案という面でもPoCは有効だったのですね。ところで、人間中心設計ではシステムを実際に使う方など周囲の協力が不可欠ですが、反対意見などはありましたか?

兒玉

そもそも上層部が現場に行ってほしいという考えを持っていたので、特に反対意見はありませんでした。
「5ゲン主義※」が社内の文化として根付いていることもあると思います。 また、現場のフィールドエンジニアも現地視察やインタビューなどに歓迎ムードでしたね。

※「現場」「現物」「現実」を重視するとともに、「それがなぜ成り立つのか」「多くの場合どういう結果になるのか」を理解すること。

───それも御社の文化なのですね。フェンリルとしても非常にスムーズにプロジェクトを推進することができて本当に助かりました。これまでのところでもいろいろお話しいただいたのですが、フェンリルとプロジェクトを進める中で、特に印象に残ったエピソードなどありますか?

兒玉

心に残ったのは、プロトタイプのテストを皆で見に行った時のことですね。実際にフィールドエンジニアがプロトタイプを使っている様子を見て、フェンリルのエンジニアの方が感動した顔をしていたんです。本当にすごく感動しているのが印象に残っていて。外注しているのではなく、一緒に作っている「共同開発」なのだと実感しました。

───私も覚えています。あの時はデザイナーも食い入るように見ていて本当にうれしそうでしたね。あのような機会をいただき、私たちもあらためて「共同開発」を実感でき、印象深かったです。それ以外にございますでしょうか?

兒玉

大阪支店でフィールドエンジニアにインタビューした時でしょうか。フェンリルさんからの質問に対してフィールドエンジニアが答えに詰まり、同席していた私が「こういうことじゃないですか?」とフォローを入れたんです。その時フェンリルのデザイナーの方に「現場の声が聞きたいのでそういうのやめてください」と怒られまして……。お客さんに怒ることができるなんて、フェンリルさんは本当に信念を持ってやっているのだと実感しました。

───他にも若手のフィールドエンジニアへのインタビューの時、しゃべりづらくなるから若手以外は会議室から出ていってくれ、とフェンリル側から申したこともありましたね。

兒玉

フェンリルさんは開発会社ですけど、顧客に言われたことをそのままやるのではなく、対等な関係で意見や提案をしてくれるのが良かったですね。
あと、メンバーの方々が個性豊かで、かつ明るかったので非常にやりやすかったです。

───ありがとうございます。そういうことを続けていけるよう努めてまいります。
リリース後の効果

THEME 03

リリース後の効果

業務の効率化によって、メンテナンスサービスの質も向上。
───リニューアルの効果や社内外の反応についてお聞かせください。

岩井

一番良かったのは手元でデータを見られたことです。メールや電話でのコミュニケーションの手間も削減でき、お客様の機器の復旧に集中することができました。あと、お客様にもデータをお見せしながら原因や対応内容を説明できるので、納得、安心していただきやすくなったと思っております。メンテナンスサービスの質が上がりましたね。

───ベテランの社員の方の反応はいかがでしたでしょうか? 長年にわたってやってきたことを変えていくのはなかなか難しいと思いますが。

兒玉

正直なところiPad自体の操作自体に慣れていない人もいるので、ベテラン社員の中ではリニューアルに賛否があります。ただ、今はベテラン層でもオンラインメンテナンスアプリを使いこなす人が増えてきており、彼らからの改善要望も上がってくるようになりました。

───ベテラン層も前向きに捉えられてるんですね。

兒玉

他にも、メンテナンス業務とは直接関係ないところで効果が出ているのが営業活動です。商談中に口頭でサポート内容を話すより、オンラインメンテナンスアプリの画面を見せながら説明する方が断然説得力があるそうです。私たちが当初考えたのとは違う使い方でした。

───確かにお客様もイメージが湧きやすいですね。
───では、最後の質問です。今後「オンラインメンテナンスアプリ」をどのように進化させていこうとお考えでしょうか?

兒玉

ちょうど先日フェンリルさんとも話してきたのですが、次は海外での展開を検討しております。日本とは状況が違うところもあるので、現地のさまざまな意見を聞きながら改善を加えていきたいと思っております。
また、新しい技術へのチャレンジも考えております。例えばインダストリアルAIみたいなこととか。他にもライダーセンサーやVRの技術を使って、遠隔でも現場を可視化できるようにしたいです。

岩井

現場視線で言いますと、一通りの満足感はあるのですが、現場からも改善案を発信し続け、フィールドエンジニアとって本当に使い勝手の良いシステムにブラッシュアップしていきたいです。

COLUMN Design with Tech

フェンリル担当者に聞く開発のポイント

人間中心設計(HCD)を取り入れたアプローチ

プロジェクト概要

「オンラインメンテナンス®」のリニューアルプロジェクトでは、人間中心設計(HCD=Human Centered Design)の考え方に基づいてデザインし、開発を実施。ユーザーエクスペリエンスに重点を置くことで、ベテランの社員だけではなく、誰もが使えるアプリケーションを目指しました。

# 人間中心設計 # HCD # ユーザーリサーチ # UXデザイン

人間中心設計(HCD)」とは

人間中心設計(HCD)は、サービスやアプリケーションを開発する際に、使用するユーザーの使いやすさを中心に置いて設計する考え方です。プロダクトの作り手の都合によって機能やデザインを決める従来のやり方ではなく、開発していく上でのやりやすさやコスト性などはひとまず置いて、常にユーザーが利用しやすい設計を追い求めます。

人間中心設計の進め方の基本は、
1. ユーザーの利用状況を調査する
2. ユーザーの要求を定義する
3. 要求に沿って制作する
4. 制作したものを検証する

という4つのプロセスです。このプロセスをユーザーの要求が満たされたと評価されるまで繰り返します。

人間中心設計の目的は「ユーザー自身も気づかないような本当のニーズを見つけ出し、新たな魅力や体験を創造する」ことであり、ただ単にユーザーの声を集めて現状の問題を改善するだけでは人間中心設計とは言えません。そのためプロジェクトの推進には、プロダクトの開発に必要な専門家や、ユーザーの本当のニーズを汲み取ることができる人材などで構成されたチームを設計することが求められます。

ユーザビリティを
一番に考えたリニューアル

1989年に導入されたオンラインメンテナンスアプリは、長年にわたって表示項目や機能が追加されていったため複雑化し、ベテランの社員しか使いこなせていませんでした。さらに、複雑さゆえに使用方法を教えることも難しく、若手フィールドエンジニアの多くが一部の簡単な機能しか使っていないという状況にもなっていました。
また、オンラインメンテナンスアプリの開発に携わっていた社員が現場でどのように利用されているか十分把握しないまま開発を進めていったことも、システムの使いづらさの原因となっていました。
そのため今回のリニューアルではユーザビリティのことを一番に考え、システムの操作や読み取りに人間が合わせるのではなく、現場で実際に使う人に合わせて機能やデザインを設計する人間中心設計の考え方を元に開発が進められることになりました。

現地に赴き、ユーザーの利用状況を調査

まずはユーザーの利用状況の把握から開始。実際の業務に同行し、どのような状況でどのように使われているかを視察しました。視察の合間にはベテランのエンジニアと若手のエンジニア双方へのインタビューも実施。これらの調査の結果を元にしてユーザーのペルソナや利用フローを作成したほか、実際の業務内で起こっている課題や要望を改めて整理しました。

グループワークで
ユーザーの要求を定義

調査の後は、フェンリルと三浦工業の担当者でグループワークを行いました。グループワークの実施にあたっては、メンテナンスの実務経験のある方にも参加いただき、オンラインメンテナンスアプリの運営側では把握できていない現場のニーズを拾えるように配慮しました。また、フェンリル側もHCD専門家だけではなく、制作に携わるエンジニアとデザイナーも参加。プロジェクトメンバーが一丸となって取り組みました。

グループワークを実施することで、リニューアルで実現すべきユーザーの体験や方向性が明確かつ具体的になりました。そのためプロジェクト推進の説得力が増し、ユーザーのことだけを考えて制作に取り掛かることができました。その後、グループワークで決定した方向性を元に開発に着手。バージョンアップごとにヒヤリングやアンケートで評価を収集し、次の改修に生かしていく、というサイクルを繰り返しています。

大切なのは
共創関係を作ること

人間中心設計では様々なユーザーのニーズに答える必要があり、エンジニアやデザイナーだけではなく、現場業務に精通した人材、システム運用者などの様々なメンバーの協力が必要不可欠です。また、人間中心設計のプロセスは一度だけ行うのではなく、繰り返し継続して行うことが求められます。
そのため、人間中心設計のプロセスを行う上で最も大切になってくるのが、協力し合える共創関係を築くこと。今回のプロジェクトでは、三浦工業様の積極的なご協力もあり、スムーズかつ高品質な調査→分析→制作→評価のサイクルを繰り返すことができました。

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