情報システム本部
課長代理 平田 匡人 氏
情報システム本部
課長代理 松尾 光紗 氏
直感的なUIで、スキルに左右されないシステムに。業界をリードする老舗企業の取り組み。
Story of IDEA
段ボールや板紙等の紙加工品の製造・販売をはじめとした事業を展開するレンゴー株式会社。創業から100年以上にわたり、パッケージングで暮らしを支えてきた老舗企業です。2024年、取引先が発注を管理するシステムの一つである「シート発注Web」と、受注を管理するシステムの一つ「ケース受注Web」の総称である「取引先Webシステム」をリニューアルしました。同システムのリニューアルに際して、フェンリルはシステム開発とデザインを担当。 今回は、フェンリルとの歩みを振り返りながらリニューアルに至った経緯や完成までの道のり、リリース後の反響を伺いました。

THEME 01
開発の経緯/背景
ミッション達成に向けて、 DXを推進する老舗企業の取り組み。
───レンゴーは創業100年を超える歴史ある企業であり、現在もなおDX化をはじめとしたさまざまな改革をされていますよね
平田
レンゴーは経済産業省のDX認定制度※に指定されておりまして、昨今は、ITを活用した業務の効率化や生成AIの活用に取り組んでいます。
レンゴーにとって、商品そのものの価値をお客さまに提供することはもちろん、商品販売の過程における環境への負荷低減も重要なミッションです。このミッションを達成するために、ITを活用した業務の効率化を進めています。具体的には、生成AIや機械学習といった技術を活用し、さまざまな施策を実行しているところです。
※DX認定制度
「情報処理の促進に関する法律」に基づき、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応する企業を国が認定する制度
松尾
ほかにも改革の一環として、レンゴーの業務システムはRFID※を積極的に導入しています。
RFIDの利点は、棚卸や受け入れの手間が激減し、業務を今までよりずっと楽に実施できることです。今まではラベルを毎回発行していたのですが、RFIDが導入されたことで、個人が読み取るだけで作業が完結します。
レンゴーはRFIDを導入した時期が、他社と比べてとても早かったんです。いわゆる先駆者の立ち位置といっても過言ではないと思っています。業界内にも導入を提案して、他の製紙会社にも同じような取り組みを推進してもらいました。
※RFID
電波を用いてRFタグの情報を非接触で読み書きする自動認識技術

───お二人が所属されている情報システム本部では、どのようなDXの取り組みをされているのでしょうか?
平田
私たちは他部門が業務を円滑に実施できるようアシストすることをミッションの一つに掲げています。もちろん、業務効率化を推進するシステムの導入を積極的に考えていて、さまざまな可能性を検討して社内に提案をしています。
また、DXを推進するための人材育成にも取り組んでいて、2年前から専用の研修も実施しています。データエンジニアリングといったITのスキルだけではなく、ビジネススキルや統計学の知識も必要です。まずは基本を学んでもらい、そこからステップアップしてもらうための支援をしています。

平田
ゆくゆくは、レンゴーのナレッジを含めた大量のデータを素早く取り込める保管庫を作って、そこからデータを分析する、という流れを作りたい。この保管庫はデータレイクと呼ぶのですが、これを利用できるデータサイエンティストを輩出し、全国30以上の工場に配置できたらと考えています。
松尾
今は実施していないのですが、業務部門がやっていることを学ぶための、交換留学制度のような取り組みはありました。情報システム本部と現場の人間を、期間を区切ってトレードするというものです。
やっぱり実際に工場で作業している現場のことが分かると、現場に対してこういうのをやろうよ、こういった改善の余地があるよ、といった観点で考えられるようになります。
DXやIT化の推進はもちろん大切ですが、工場の人が真に何に困っているのかを見抜くためにも、他部門の業務内容をきちんと理解することも重視したいですね。

───DXの推進にもつながるかと思うのですが、「取引先Webシステム」のリニューアルの背景についてお聞かせいただけますか?
平田
リニューアル前は、長い間同じフレームワークを使い続けていたんです。保守はできるけれども、できるところに限りがあるという状態で。そのため、改修するとミドルウェアが対応しないといった課題があり、これまで大きく変更できませんでした。
ただ、セキュリティの安全性を担保し続けるために、このままずっと古いシステムのままでいるわけにはいきません。当時のWindowsがアップデートされる前に大きく改修してモダナイズしたい、という思いからこのプロジェクトが始まりました。

THEME 02
完成までの道のり
今までの良さを維持したアップデート。 誰にでも分かりやすい洗練されたUIを採用。
───今回の「取引先Webシステム」リニューアルプロジェクトにおける、お二人の役割を教えていただけますか?
松尾
私はこのプロジェクトのリーダーという立場です。
プロジェクトのリーダー自体初めてだったので、右も左も分からない状態からのスタートでした。それでも平田さんや、技術面をはじめとしたフェンリルさんのサポートがあって、徐々に不安を解消していけました。フェンリルさんには随時質問や相談をしてきましたが、真摯に向き合ってくださってありがたかったです。
平田
私は、プロジェクトを俯瞰して見るアドバイザーという立場です。プロジェクトの管理や技術面のサポート、ベンダー探しやセッションを担当しました。

───リニューアルにあたって、最も重視していたことは何でしょうか?
松尾
前提として、お客さまからすると既存システムも「すでに便利に使えているもの」だという認識がありました。その便利さを損ねないように、使用感はあまり変えずにより便利なものにしたいという思いを持って取り組みました。
平田
私は、セキュリティとUX/UIを意識していました。
UX/UIについては、既存システムには使い慣れていると気付けない、使いづらさがあったんです。もっとクリック数を減らしたり、効率を上げたりする方法をいくつか思い浮かべていたので、改善に向けて検討を重ねていました。
というのも、私が初めて既存システムを触ったとき、今行った操作でデータがどのようになったのかがすぐに分からなかったんです。そうした体験もあって、慣れている方だけではなくどんな方にでも分かりやすいシステムを目指したい、という話はしていました。お客さまにおいても、新しく担当になった方が操作方法に迷わないためのUIを重要視しました。

───そうしたポイントを実現するにあたって、フェンリルをパートナーに選んでいただいた理由をお聞かせいただけますか?
平田
前職のときにフェンリルさんとお取引していた縁があり、システムのリニューアルにあたってお声掛けしました。
実は、お話しする前は今回のリニューアルで全てサーバレスになるかと思っていたんです。ですが、フェンリルさんからのご提案は、ECS※を中心としたアーキテクチャを設定してコンテナを使うというものでした。正直言うと少し驚いたのですが、セキュリティを重視しているこちらの意向をくんでいただいた上で、セキュリティの強化や運用しやすい構成についての説明を受けて納得しました。フェンリルさんのパフォーマンスの高さはある程度理解していたので、これ以上の答えは多分ないだろうなとも思いました。
※ECS
AWSでDockerコンテナのデプロイや運用管理を行うためのフルマネージドなコンテナオーケストレーションサービス

松尾
AWSのスペシャリストがいらっしゃるという話も聞いていましたし、デザインの面でも実績があってプロフェッショナルだと思いました。やりとりを進めるなかで、フェンリルさんと一緒にお仕事できたら楽しそうだなと、率直に感じました。
平田
そうですね。そうした感覚だけではなく、価格、技術力、プレゼンの資料の量と質、PMスキルの高さなどから総合的に評価しました。他ベンダーさんからもいくつかのご提案を受けましたが、フェンリルさんのご提案は文句のつけようがないと感じました。
───フェンリルとプロジェクトを進めるにあたって印象的だったことはございますか?
平田
当たり前といえばそうなのですが、フェンリルさんは想像していた以上にツールを使いこなされていると感じました。例えばプロジェクト管理ツールのBacklogでは、議事録から課題管理まで、ツールを見ればプロジェクトの状況が分かる状態になっていて非常にやりやすかったです。
松尾
私もリーダーという立場でプロジェクトの進行が不安だったのですが、Backlogを見ることで振り返りがしやすかったですし、細かい課題まで抜け漏れなく挙げてくださり、不安が解消されました。情報共有を徹底するというベーシックなプロジェクト進行を大切にされていて、メンバーの皆さんの中でも文化として根付いているということも伺っていたので、安心して進めることができました。

平田
これまでの経験上、プロジェクトを進めるにあたってツールを導入したとしても、使いこなせないことが多い印象を持っていました。ツールは意識をして運用しないとなかなか浸透しないので。
ですが、フェンリルさんはメンバー全員が意識して課題やタスクをBacklogに残してくれていたので、プロジェクトの状況がすぐ把握できました。ここを徹底できるのはやっぱりフェンリルさんならではだと思います。
松尾
あとは、コミュニケーションがすごく活発だったなと思います。フェンリルさんは大阪だけではなくて東京や名古屋などさまざまな拠点の方がいたと思うのですが、私自身は働く場所が違う人とプロジェクトを進める機会が今まであまりなかったんですよね。それでも、SlackやBacklogで即時にコメントができるといった、意思疎通がスムーズにできる工夫がされていたので、コミュニケーション面で困ったことはありませんでした。
平田
開発フェーズでは、AWSの専門家としてのアドバイスをいただきましたよね。
例えば、ベストプラクティスであるAWS Well-Architected Framework※を用いてAWSクラウド上の構成を考えていただきました。その結果、優れた運用効率・セキュリティ・信頼性・パフォーマンス効率・コストの最適化・持続可能性という6つの観点から、コンテナアーキテクチャをメインとした構成が最適だと教えていただきました。
さらに、レンゴー側での運用を想定していたので、一部にサーバーレスアーキテクチャを併用して、開発とシステム運用者の両方の負担を低減する配慮もいただきありがたかったです。
※AWS Well-Architected Framework
AWSを利用したシステムの設計と運用を評価するためのAWS公式の指針

THEME 03
今後の展望
選ばれ続けるサービスを目指して、 ノウハウを次世代につなぐ。
───システムのリニューアルが完了して、どのような感想をお持ちでしょうか?
松尾
直感的なUX/UIにすることで、どのような職種やスキルをお持ちの方でも使いやすいシステムにすることを最大の目標にしていたので、デザインの更新について議論を重ねてきました。その結果、リリース後の操作面に関する問い合わせが極めて少なく、スムーズにお客さまに受け入れていただけたというのが印象的です。私たちがデザイン面を重要視していることを理解した上で進められたこと、フェンリルさんがその思いを受けて良いご提案をいただいたおかげだと思っています。

平田
今回、システムの操作マニュアルも作成したのですが、それが必要ないほど洗練されたUIをリリースできたというのが私の中で大きな成果でした。前提として、何かトラブルがあっても操作マニュアルを見ない人が多いんです。見たとしても結局は問い合わせになることが多く、マニュアルの意味をなさないと感じることもあるので。レンゴー側は強い思いを持って妥協せずに意見を言ってきましたが、フェンリルさんがそれを叶えてくださって大変感謝しています。
松尾
UIも簡単で直感的なので、現場の方からお客さまに操作を教えることができるのも驚きました。現場の方がデモンストレーションされるところに立ち会ったのですが、ほとんど私の方に質問することなく操作できていました。

───さまざまなアップデートをされた今回のリニューアルにおいて、重視されていたセキュリティ面はいかがでしたか?
平田
セキュリティと可用性の両立に力を入れるということで開発を進めていただけたと思っています。受発注のためのシステムなので、不具合が出ないようにというのはもちろん、レンゴー側で運用しやすいようにということにもご配慮いただきました。
レンゴーとしてもセキュリティ面は最も重要な課題の一つだった中で、フェンリルさんは多くの実績と知見をお持ちなので、お任せしても全く心配なかったです。
───ビジネスの観点ではどのような変化があったのでしょうか?
松尾
今回の取り組みは、サプライチェーン強化の一環でもあります。このようなシステムを提供できると、私たちとしては受発注や検収手続きのやり取りが減って業務効率の改善につながりますし、お客さまにとっても以前より注文しやすくなるという、まさに相互利益をもたらす結果になりました。
平田
そうですね。
リニューアル後、新たに本システムをご利用いただく取引先が増え、より一層お客さまとの関係を強化できたと考えています。さらに、利用者から気軽にシステムの問い合わせができるようになったことで、これまでできていなかったシステムの改善にもつながっています。
末永くレンゴーと取引していただくために、いかに満足いただけるサービスを提供できるか、というのを日々検討しています。

───システムのリニューアルを経て、今後目標にしていきたいことをお聞かせください。
平田
まずは、引き続きシステムを安定稼働させたいです。今後、追加機能を検討する場合、運用の観点から考えても複雑になってしまうことは避けたいので、このシステムに最新技術をあえて導入する必要もないかと思っています。
一方で、情報システム本部としては、生成AIをはじめとする新技術を積極的に活用していきたいと思っています。レンゴーにとって、この部門がこれからより重要な組織になってくると考えているので。
松尾
DXの推進はもちろんですが、昨今はさまざまな場面でデータを活用しないと、競争について行けない状況にありますよね。特に社内をはじめとした業界全体の高齢化を懸念していて、知識が継承されないまま縮小していくことも考えられます。だからこそ、データをもとにしたアクションを取らないといけないと考えています。

平田
さらに言うと、知識やノウハウをベースにして、いつでも誰でも分かる状態を作り、レンゴー全体のスキルを底上げしたいです。今回のシステムはそういったノウハウ蓄積の第一歩になったと感じているので、これをきっかけにしてベテランの社員とともに若手社員もより活躍できる会社を目指していきたいです。

「価値あるデジタルサービスのために」三位一体のサービス構築。
プロジェクト概要
段ボール国内シェアナンバーワンのレンゴーが、取引先の受発注を管理する「取引先Webシステム」。DX推進の目標として、既存プロセスの変革や新規ビジネスモデルの創出を掲げている。直感的に使えるウェブシステムを実現し、ユーザーの学習コスト低下を実現した。 昔からIT業界では、アプリケーションとインフラは表裏一体と言われてきました。 フェンリルではこれをさらに発展させた視点として、「デザイン、アプリケーション、インフラ」が三位一体であると考えており、三要素の結びつきが、現代のデジタルサービスの質を大きく左右します。 本プロジェクトにおいても、それぞれの要素をプロフェッショナルに遂行し、安心と信頼の品質を提供しています。
デザイン: ユーザーエクスペリエンスの基盤
まず、デザインは単に美しいインターフェースを提供するだけでなく、ユーザー体験全体を形作る重要な要素です。
良いデザインは、直感的で使いやすいだけでなく、ユーザーの目的をスムーズに達成できる仕組みを提供します。
これには、UXやUIの設計だけでなく、情報アーキテクチャやナビゲーションの工夫も含まれます。
デザインが優れていることで、サービスの利用価値が最大化され、ユーザーにとっての満足度が高まります。
このデザインの実現には、アプリケーションとインフラの協力なしには成り立ちません。
アプリケーション: サービスの心臓部
アプリケーションは、デザインを具現化する部分であり、サービスの「心臓部」と言えます。
デザインがどれだけ優れていても、それを動作させるアプリケーションが不安定だったり、レスポンスが悪かったりすれば、全体の評価は大きく下がります。
また、アプリケーションは単体で存在するものではなく、バックエンドのインフラと密接に連携しています。
例えば、データ処理やリアルタイムの反応速度、クラウドサービスを活用した拡張性などは、アプリケーションの性能に直結する要素です。
アプリケーションは、インフラの力を借りてその可能性を最大化します。
インフラ: 安定性とスケーラビリティの要
最後に、インフラストラクチャはアプリケーションとデザインの土台となるものです。
クラウド技術の発展により、インフラは単なる物理的なサーバーの提供から、スケーラビリティや柔軟性のあるサービスを可能にする重要な役割を担うようになりました。
例えば、トラフィックが急増した際に自動でリソースを拡張するオートスケーリングや、データの冗長性を保つための分散アーキテクチャなどは、インフラの進化がもたらす恩恵の一部です。
これらの要素がなければ、どれだけ素晴らしいデザインやアプリケーションであっても、現代のユーザー要求に応えることは難しいでしょう。
三位一体の協調の重要性
デザイン、アプリケーション、インフラが互いに補完し合うことで、真に価値のあるデジタルサービスが生まれます。
この三位一体の協調関係は、以下のような効果を生み出します。
1. ユーザー満足度の向上: デザインが使いやすく、アプリケーションがスムーズに動作し、インフラがそれを支えることで、ユーザー体験が向上します
2. 効率的な開発と運用: 三者が緊密に連携することで、開発効率が上がり、運用コストも削減できます
3. 競争力の強化: 高品質なサービスを提供することで、競合他社との差別化が図れます
ユーザーに価値ある体験を
アプリケーションとインフラストラクチャの表裏一体の関係をさらに進化させ、「デザイン、アプリ、インフラ」という三位一体の視点を持つことは、これからのデジタルサービスにおける競争力の源泉となります。
この三者の調和を意識しながらサービスを設計・構築することで、企業はユーザーにとって真に価値のある体験を提供できるのです。
レンゴーにおいては、システム改修の当初よりUX/UIを重要視されていたことが、使用者にとって使いやすく運用コストも低いというシステムの実現につながっています。
業務用アプリの開発では、機能ベースでの操作画面や動線設計が重視される傾向にあります。機能的なアプリになる一方、業務と合っておらず使いにくいということも起こり得ます。
機能を重視しすぎるのではなく、実際にユーザーが触れるUX/UIの部分に注力することが、真に使いやすいシステムの構築につながります。